「元気な子が産まれて、幸せな家庭が送れますように」

女性は小銭を賽銭箱に投げ入れ、手を合わせて願いを口にした。

「俺も、妻と願いは一緒です。元気な子が産まれて、幸せな家庭が送れますように」

新しい旦那さんだろうか、三十歳ぐらいのメガネをかけた男性も女性と同じことを口にしていた。

数秒後、静寂に包まれたのち、「帰ろっか」と、男性が女性の手を握って言った。

「うん」

女性も男性の手を握りしめ、神社から帰ろうとしたそのとき、「待ってください」と、思わず声を上げて二人を呼び止めてしまった。

「なにかしら?」

「なんですか?」

僕の声に反応して、二人がこっちに振り向いた。

いざ呼び止めたものはいいものの、なにを話したらいいかわからなかった。

数秒間、頭の中でなにを話すか考えたのち、「子供、産まれるんですか?」と、女性に視線を向けて訊いた。

「それ、私に聞いてるんだよね?」

「は、はい。そう……です」

僕は、小さく首を縦に振った。