「その妻は、幸せになったの?」

僕は、小さな声で訊いた。

「幸せになってるみたいだよ。彼のことも忘れて、新しい恋人と一緒によく神社にお祈りに来る姿を見るよ」

「そう……なんだ」

女神様の口から彼女が幸せになっていることがわかったが、僕はそれをすなおによろこぶことができなかった。

彼が神社にお金を納めたから彼女が幸せになれただけで、お金を納めなかったら、子供と夫の死を今でも引きずっているはずだ。それに妻の幸せをよろこんでしまうと、同時に夫の死もよろこんでいるような気がしてしまって彼女の幸せをすなおに祝福できなかった。

「結婚もして、もうじき新しい命が産まれるみたいだからね」

目を細めて女神様は、おっとりした口調で言った。

目を細めて話す女神様の顔を見ると、ほんとうに彼女が幸せになったことが伝わった。

「あ、ちょうど彼の好きだったその妻が新しい恋人と一緒に神社に来たよ」

「えっ!」

女神様の言葉を聞いて、僕は後ろを振り返った。
僕の数メートル先に、とても幸せそうなカップルが神社に向かって歩いてくる姿が見える。女神様の言ったとおり妻は妊娠しているのだろう、お腹がぽっこり大きくふくれていた。