「尊人。お前、ずっと夏休み食って寝てただろ。少しは、運動しろよ」

僕は、ぽっちゃりと太った尊人のやわらかいお腹を右手で軽くさわりながら言った。

「うるさいなぁ、願」

そう言いながら、尊人は顔をしかめた。

尊人とは昔から変わらず下の名前で呼び合えるのに、つぼみとはいつしか、〝広瀬〟と呼ぶようになった。

「そういう願は、夏休みなにやってんだよ?」

尊人が乗っていた自転車から降りて僕に訊いた。

「ずっと、スマホのゲーム」

僕も乗っていた自転車から降りて、制服のズボンのポケットから白色のスマートフォンを取り出して答えた。

「なんだ、ずっとゲームか。暇な人生だな」

尊人が自転車を押して坂道を歩きながら、僕に視線を移して言った。

「今の高校生、みんなそんなもんだろ」

僕は自転車を押して坂道を歩きながら、あっさりとした口調で言った。

坂道は半分くらいしかのぼっておらず、もう半分ぐらいのぼらないといけない。