あのとき、弘斗が誘ってくれなかったとしても、私から誘うつもりだったんだ。
たしか、昼休みだったっけ。二人でなんとなく話をしていたとき、弘斗が気になっている映画として挙げたものに、私は大げさに反応した。ちょっとわざとらしかったかなってくらいに。
「あ、それ私も気になってたやつだ!」なんて、大根役者も顔負けの棒読みだった。でも、弘斗はそんな私の嘘に気づいてなかったみたいだった。
あのときは、弘斗が鈍くて助かったな、って思った。
うん。あれ、実は嘘で、弘斗と一緒に出掛けたくて合わせただけなんだ。だから、ごめんなさい。でも、前日にその作品のこと、ちょっとは勉強したよ。
弘斗と初めて出かけたことは、私もよく覚えていた。
男の子と二人きりで出かけるのは、それが初めてだった。
どんな服を着ていけばいいのかわからなくなって、タンスの中にしまってあった服を全部床に並べてみたりした。ああでもない、こうでもないとうんうん唸って――。
でもそれがなぜか楽しくって、最終的に無難な服に落ち着いたときは、ため息が漏れた。
楽しみな気持ちと不安な気持ちが同居する胸を必死に落ち着かせながら、私は少し早めにベッドに横になる。目を閉じても次の日のことを考えてしまい、なかなか寝付けない。
それどころか、そういえば、これはデートって呼んでもいいのかな、などと考え始める始末。
異性と二人きりで出かけることを、世間一般ではデートと呼ぶはずだ。じゃあ、私は明日、好きな人とデートをするのか……なんて思って、ドキドキした。
意識しないようにしようとすればするほど、どうしても意識してしまって、余計に寝付けなくなる。