弘斗への気持ちを自覚した後も、私の想いは次第に強くなっていった。

 恋のきっかけと呼べるほどの出来事は、特になかったはずだった。

 弘斗は私に、これといって何かをしてくれたわけでもない。ただ隣にいて、仲良くしてもらっていただけだ。

 怖い人に絡まれているところを助けてもらったわけでもなければ、階段から落ちそうになったところを支えてもらったわけでもない。

 強いて言えば、私が忘れていた宿題をこっそり写させてくれたり、黒板の上の方に届かなかったときに代わりに消してくれたりしてくれた。その程度だ。

 でも、その一つひとつが積み重なって、心に蓄積されていって、やがて、好き、という気持ちを形成していったのだろう。

 それはとても素敵で、幸せなことだ。

 とにかく、弘斗への想いは日に日に増していく一方だった。

 優柔不断なところとか、ちょっと真面目すぎるところとか、そういう欠点すらも、愛おしく思えた。弘斗の全部が好きになった。

 これが恋なんだって、どうしようもなく理解してしまった。



 そして高校一年生の夏。

 私たちは距離を縮めていく。



 初めて二人で出かけた日のことも、僕は覚えてます。

 行先は、隣町の映画館だったよね。

 学校で見に行きたい映画の話をしていたら、玲美もその映画に興味があるって言ってきて、チャンスだと思って、すごく緊張しながら誘った。

 あのとき勇気を出した自分を、ものすごく褒めてあげたい。そのおかげで、玲美との距離を縮めることができたから。



「残念。それはちょっと違うよ」

 私は呟いた。