私の左隣に座る生徒が、身体を四十五度くらいこちらに傾けた。私も同様に、椅子ごと斜めにする。

 そこで初めて、隣の席の人が男子であることに気づいた。

「筒木弘斗です。よろしくお願いします」

 少し低めの声は落ち着いていて聞き取りやすく、大人っぽい印象を私に与えた。

 これといって目立った特徴はなく、覚えにくそうな顔だなぁ。なんて、失礼な感想を抱いたっけ。

 髪は男子にしてはちょっと長めで、サラサラで羨ましい。全体的に線が細いけど、不思議となよなよしているとか、弱々しいというような印象は受けなかった。背筋が伸びているからだろうか。

 第一印象は真面目っぽい。きっと素直な性格なんだろうな、と予想する。動物に例えると……犬、だろうか。なんとなくだけど。

 そんな心の中での冷静な分析とは裏腹に、私はテンパりながら、

「あっ、あの。松戸(まつど)玲美といいます。よろしくお願いします」

 と、どうにか名乗る。

 ありきたりな出会い方だったけれど、私にとって、それは紛れもなく運命だった。約三年が経った今ならわかる。痛いほどに。

「うん。よろしくね、松戸さん」

 名前を呼ばれて、心臓が高鳴る。

 控えめな、だけど無邪気な笑顔が素敵で、この人のことをもっと知りたいと、理屈じゃなくて、直感的に思った。