不思議と、涙は出てこなかった。

 心はこれ以上ないくらいに安らいでいて、最愛の人の死を、私はしっかりと受け入れていた。

 今まで、生きてくれてありがとう。

 喪服に身を包んだ私は、弘斗の眠る棺をのぞき込む。

 彼は、とても幸せそうな顔をしていた。死んでいるなんて、嘘みたいだった。今にも起き上がって、私の大好きな笑顔で笑いかけてくるんじゃないかって思った。

 誰よりも愛した人の葬儀に出るということは、果たして幸せなのか、それとも不幸せなのか。

 考えてみても答えは出ないけれど。

 彼の生きた日々を、彼と生きた日々を――私は何よりも尊く思う。