「もし弘斗が、私のお願いを叶えてくれないんなら、弘斗のお願いも聞かない」私は意外に頑固なのだ。「だから、絶対に手術、成功させて」

「それは、主治医の先生に言うことじゃないかな」

 弘斗が困ったように笑う。

「そこは普通、うなずくところじゃない?」

 私は不満をぶつけた。

「だって、僕一人の力じゃ、どうにもできないことだし」

 こんなときでも、弘斗は真面目だ。彼は、できない約束はしない。

 現実を見据えて、地に足をつけて生きている。

 それに、弘斗だって必死なのだ。

 毎日、痛みに耐えながら薬を投与されて、点滴で栄養を摂って。生きるだけでいっぱいいっぱいの日々を、必死で過ごしている。

 もちろん、死にたくなんてないはずだ。

 どうして弘斗が……。

 弘斗が何か悪いことをしたの? 弘斗が誰かを苦しめたの?

 世界は、どうしてこんなに理不尽なの?

「病気なんて、気合でどうにかしてよ」

 涙を拭いながら、私は言う。蚊の鳴くような、弱々しい声になってしまった。

「無茶苦茶だ」

 弘斗は笑った。とても楽しそうに。

「でも、どうにかなる気がしてきた。玲美が応援してくれれば、病気だって倒せる気がする。うん。手術、成功させてくるね」

 そして、私たちはたくさんの約束をした。

 行きたい場所。見たい景色。食べたい料理。そういうものを片っ端から思いつくままに挙げた。

 弘斗の手術が終わったら、それを全部叶えるのだと、今どき小学生でもしないと思うけど、指切りをした。

 弘斗の弱々しい小指を、私は小指はしっかりとつかんだ。

 ただの気休めだということは、私も弘斗もよくわかっている。

 そんな気休めでも、弘斗が手術を成功させてくるといってくれたことが、私はどうしようもなく嬉しかった。

 手術の成功を、弘斗を、私は信じることにした。