弘斗の遺書が、弘斗の遺志が、想いが、バラバラにちぎれていく。
二つに裂いた紙を重ねて四つに。
四つに裂いた紙を重ねて八つに。
十六の破片になったところで、それ以上破けなくなった。どれだけ力を加えても、私の力では足りなかった。
それでも私は力を入れて、なおも紙を引き裂こうと試みる。
指が痛い。ひりひりする。
もっと小さくちぎって、目に見えないくらいの塵にして、弘斗の病気ごと、なかったことにしたいのに。
どうしようもなく、私は無力だった。
仮にちぎれたとしても、弘斗の病気はなくなってくれやしない。当然、そのこともわかったうえで。
神様に祈ることでしか、一縷の望みに縋ることでしか、私は弘斗のために何かをすることができない。
いや、彼のためではない。弘斗の病気が治ってほしいという思いは、結局、私が弘斗と一緒に生きたいからだ。
突き詰めれば、それはあまりにも自分勝手な願望だった。
流し終えたと思っていた涙が再びあふれてくる。
絶望と自己嫌悪にまみれて、私は、どうにかなってしまいそうだった。
手から力が抜けて、弘斗の手紙が床に散らばった。
ひらひらと舞い落ちていくそれは、弘斗の命を暗示しているようで、そのことが私の涙に拍車をかける。
涙腺が壊れてしまったみたいに、私は泣いた。
嫌だ。嫌だよ。弘斗がいなくなってしまうなんて、嫌だ。
そして、しばらく泣き続けていた私の耳に、聞き慣れた声が届いた。
「……玲美? 何……してるの?」
目の前のベッドに横になったままの弘斗が、ぼんやりした目で私を見ていた。



