気づけば、頬を涙が伝っていた。悲しみが止め処なくあふれてくる。

 鼻をすする音がやがて、嗚咽に変わった。もう、制御できなかった。

「……無理だよ」

 弘斗のことを忘れるなんて。

 そんなの、絶対に無理だ。

 どうしたって、忘れられるはずがない。

 肩にかけていたスクールバッグ。それに付けられている、ペンギンのキーホルダーをぎゅっと握る。

 呪われてもいいから、化けて出て、また私に会いに来てよ。そんなことすら考えてしまう。

 その前に、死なないでよ。

 私は、他の誰かと幸せになりたいんじゃない。好きな人と――弘斗と幸せになりたいんだ。

 そのまま数分ほど泣き続けて、ようやく落ち着いてきた。

 ハンカチで目元をぬぐって、弘斗の手紙を改めて読み返す。

 ――本当に、弘斗はバカだ。

 何が、僕はもうこの世にいないんだね、だ。

 何が、僕のことは綺麗さっぱり忘れて、どうか幸せになってください、だ。

 あまりにも自分勝手すぎる。

 どうにか涙は止まったけれど、胸の奥から湧いてくる感情は止まらない。

 その感情が、悲しみなのか怒りなのか、その両方なのか、自分でも判断がつかなかった。

 心に渦巻くごちゃごちゃの感情は、臨界点を超えて――。

「こんなものっ!」

 私は弘斗の手紙を、力任せに引き裂いた。