「ねえ、嘘って言ってよ!」

 現実から目を背けて、私は叫んだ。

 せめて、私と別れるために考えた、まったくのでたらめであってほしかった。それも悲しいけど。

「ごめん……」

 弘斗が一番つらかったはずなのに、あろうことか、謝罪の言葉を吐かせてしまった。

 私は最低だった。

 弘斗は冗談はたまに言うけど、嘘はつけない。そんな素直さも、私が弘斗を好きになった理由の一つだった。

「……でも、治療が上手くいけば、死なないんでしょ?」

 私は精いっぱい強がって口にした。そして同時に気づいてしまう。

 治療が上手くいけば死なないということは、治療が上手くいかなければ死ぬのだ。

「うん。主治医の先生はすごい人らしいんだ。それに優しいし。だからきっと大丈夫。ライブ、行けなくて本当にごめん。治ったら行こう。約束」

 弘斗のその泣きそうな――つらさをかみ殺して、強制的に顔の筋肉を動かして微笑んだような表情を見て。

 無理やり張り付けた私の笑顔は、いとも容易く剥がれ落ちた。涙だけはどうにかこらえて、

「うん。約束だよ。また別の機会に行こう」

 震える声で私は言った。また別の機会。それが私たちに訪れることを、強く祈りながら。

 それ以上は何も言わなかった。色々と聞きたいことはたくさんあったけれど、もし聞いてしまえば、何かが決定的に壊れてしまいそうな気がして。

 私は、どうすればよかったのだろう。これからどうすればいいのだろう。

 たぶん正解なんてどこにもなくて、ただ悲しくて悔しくて、やるせない気持ちだけが募っていく。

 人生で一番長く感じた冬休みが終わって――。

 高校二年生の三学期から、弘斗は高校に来なくなった。

 弘斗の、それからの約一年間は、入院と退院を繰り返す日々だった。