私たちは、落ち着いて話せる場所に移動する。

 歩いている間に「この前は、ごめんね」「……うん」と、一言ずつ発して、あとは無言だった。気まずい沈黙が、二人の間を漂っていた。

 その場から逃げ出したくなる。耳をふさいで、どこかへ行ってしまいたかった。

 人の少ない公園のベンチに座る。

「大事な話があるんだ」

 そう言った弘斗の表情は、いつになく真剣だった。

 一年前、告白された日のことを、私は思い出す。あのときみたいな、緊迫した声音だった。

 何か、重大なことを、私たちの関係を変えてしまうような、決定的な何かを話そうとしていることは明確だった。

 心臓の音がうるさかった。

「うん。何?」

 地面を見つめて、私は聞いた。

 別れ話だったらどうしよう。私の何が悪かったんだろう。どうしたらまた振り向いてくれるだろう。

 まだ内容も聞いていないのに、どんどん悪い方向へと想像が進んでいく。

「実は――」

 切り出した弘斗の顔は、暗く沈んでいた。声は、震えていた。

 世界中の絶望を集めてごちゃ混ぜにしたような、あの淀んだ表情と声を――私は生涯、忘れることはないだろう。

 結果的に、別れ話ではなかった。でも、安堵はしなかった。

 別れ話の方が、まだましだったから。

 弘斗は難病にかかっていた。

 日本での症例はごくわずかで、治療方法は確立されていない。その病気の詳細は聞かされていない。聞きたくもなかった。

 このまま放っておくと、二十歳を迎える前に死ぬ。

 突きつけられた現実は、あまりにも残酷で。

「……嘘、でしょ?」

 そんな言葉が、口をついて出た。

「玲美……」

 弘斗の顔が、悲しみに歪む。