「ちょ、ちょっと待って」

「うん」

 いったん落ち着こう。

 それは何よりも私が欲しかった言葉で、飛び跳ねるくらい嬉しいはずなのに。

 あまりにも突然で、驚きの方が先に訪れてしまっていた。

 正直なところ、弘斗も、私のことを好きでいてくれているんじゃないかって、ほんのちょっとだけ思ってはいた。けれど、もし違っていたら悲しくなるから、そんな甘い期待は心の奥底に封印していた。

 幸い、人通りは少なくて、クラスメイトや知り合いに目撃されることもなかった。

 それでも恥ずかしいものは恥ずかしくて、私の顔は赤く染まっていたと思う。

「それ、何かの罰ゲーム?」

 ようやく私は弘斗の方を向く。

 彼は真剣な面持ちをしていた。私も同じような表情をしていたと思う。

「違うよ」

 弘斗は否定する。

「じゃあ、私をからかってる?」

「そんなわけない」

 首を横に振る。

「これ、夢じゃない?」

「うん。夢じゃない」

 もしも夢なら、覚めないでほしいと思った。

「本当に?」

「本当だよ。どうして、そんなに疑ってるの?」

 だって、私が好きな人が、私のことを好きだなんて。

 そんな奇跡みたいなこと……。

「信じられない……」

「え?」弘斗の焦ったような声。「あ……ごめん。迷惑だったよね」

 私の発言を逆にとらえて、彼はあたふたしているようだった。

「あ、違うの! そういう意味じゃなくって! 私も、筒木くんのこと、その……いいなって思ってたから……。びっくりして」

 私も慌てて誤解を解く。精いっぱいの勇気を振り絞ったけど、後半は小声になった。好き、という言葉は、まだ口から出てこなかった。