玲美へ



 弘斗からの手紙は、私の名前で始まっていた。

 線が曲がっている。手が震えていたのだろう。それでも、私にはそれが弘斗の字だとわかった。

 誠実で裏表のない、まっすぐな性格をそのまま反映させたような、私の好きな人の字だった。データではなく手書きというのも彼らしい。

 字が曲がっているのは、たぶん薬の副作用か何かだと思う。それでも何とか綺麗に書こうとしていることも伝わってくる。それが失敗しているのも、また一段と痛々しいのだけれど。

 弘斗の本来の綺麗で整った字を思い出して、私は胸が苦しくなる。

 利き手すら思い通りに動かせないというのは、どれほどの苦痛を伴うのだろう。

 まだ私の名前しか書かれていないのに、涙が出てきそうだった。この後に紡がれている内容が、なんとなくわかるから。

 私に別れを告げるための文字が、そこにはきっと並んでいるのだ。

 そんなもの、見たくない。けれど、目を反らしてはいけない。

 私は彼からのメッセージを受け取る義務がある。

 A4サイズの便せんに、横書きでびっしり書かれた手紙だった。

 恐る恐る視線をずらしていくと、本文が始まった。



 玲美がこの手紙を読んでいるってことは、僕はもうこの世にいないんだね。

 ……なんてね。この書き出し、一回使ってみたかったんだ。だって、一生に一回しか使えないからね。



 これは、遺書のつもりなのだろうか。もしもそうだとしたら、最高にセンスがない書き出しだ。

 手紙を引き裂きたい衝動に駆られるけど、グッとこらえて、続きを読むことにした。