「つ、筒木くん……。どうしたの?」

 私の住んでいる町は比較的栄えていて、駅前にはショッピングモールも建っている。休日には買い物に訪れる人も多い。弘斗も買い物が目的かと思ったのだが、それらしき荷物は持っていなかった。

「いや、ちょっとね」弘斗は言いづらそうに口ごもった。「松戸さんは?」

「私はコンタクトが切れちゃって、買いに来てたの」

 簡潔に答える。そして、野暮ったい黒縁の眼鏡をかけていることに気づいて、一段と恥ずかしくなった。顔を両手で覆いたくなるレベルだ。

 しかし弘斗は、

「ああ、そういえば今日は眼鏡だ。眼鏡の松戸さんも新鮮でいいね」

 と、そんなことをさらっと口にするものだから、私は舞い上がってしまった。お世辞でも嬉しかった。

 世間話をしているうちに、弘斗がどうして外出しているのか、という疑問はどこかへいってしまっていた。

 今だったらわかる。あのとき、弘斗は近くの大きな病院の方から現れた。きっと、このときにはもう通院していたのだろう。

 弘斗の体は、病魔にむしばまれ始めていた。

「あ、せっかくだから、どこかでお茶しない? もし、用事がなければでいいんだけど」

 願ってもいない誘いに、私は二つ返事でうなずいた。

 近くのカフェに入店したときにはすでに、適当な服装であることも忘れて、楽しくおしゃべりに花を咲かせていた。

 夏休みの宿題がどれくらい終わったかだとか、どこか遠くに出かけたかとか。

 そんな、何でもない話でさえ嬉しかった。

「そろそろ帰ろうか」

 カフェに入ってから、すでに二時間が経過していた。楽しい時間はあっという間に終わってしまう。 

「うん……そうだね」