当日の朝。結局あまり眠れず、寝ぼけ眼をこすりながら、普段はしないメイクを施す。髪も、いつも以上に丁寧にセットした。気合が入りすぎないように注意しながら。
待ち合わせ場所に三十分も早く到着してしまったけど、弘斗はすでに来ていた。
水色のシャツに黒いボトムス。初めて見る、制服でない弘斗に、心臓の鼓動が速くなる。
呼吸を落ち着けてから近づいて「早いね」って声をかけたら「松戸さんも早いね」って、弘斗は笑った。その笑顔に、心臓がさらに動きを速める。
二人とも早く着いてしまったので、映画の上映まではまだ時間があった。
私たちは、映画館の収容されているショッピングモールを歩きながら、雑貨屋さんや洋服屋さんを冷やかした。特に何を買うわけでもなく、ただ商品を眺めているだけだったけど、それも幸せな時間だった。
上映の時間が近づいてきて、二人は映画館へ向かった。
「松戸さんは、飲み物、何がいい?」という問いかけに「オレンジジュースで」と答える。
「じゃあ買って来るから待ってて」と、彼は館内に設置されている売店の方へ歩いていく。
気が利くなぁ、なんて、ありきたりな感想しか思い浮かばなかったけど、私は幸せだった。
弘斗が両手に飲み物を抱えて近づいてきたときは、すごくデートっぽいな、なんて思って、頭の中がお花畑になったような気分だった。
人生で使う運を、全部ここで使い果たしてしまってるんじゃないかって怖くなったりもした。
実際、映画は期待していたよりは面白くなかったけど、弘斗と観たから私は楽しめた。