あの夏の宵に、僕は生まれて初めての恋をした。

日の光に当たれない虚弱体質の僕は、いつも夜な夜な泳ぎの練習をしていた。

ある時出会ったのが、おかっぱ頭のかわいい君だった。

もう何年もこの湖に住んでいるという彼女は、夏の間だけ人に姿を見せることが出来るのだという。

大きな目をした、綺麗な女の子。

彼女が笑えば、湖がさざめき夏の風が彼女を取り巻いた。

僕だけの大切な彼女を、ある時親友の響に紹介した。

湖で優雅に泳ぐ彼女を見るうちに、響の頬は夜でもはっきりわかるほど赤くなっていった。

響も、すぐに恋に堕ちたのが分かった。

夏の終わり、何年も湖に住んでいる彼女は、自由が欲しいと言って泣いた。

彼女が自由を得るには、人間に戻らなければならない。そのためには、代わりの人間がいるのだと言う。

でもそんな酷なことは誰にも頼めなくて、彼女は気が遠くなるほど長い時間、その湖にいるのだった。

自分の寿命の短さを知っていた僕は、喜んで彼女に手を差し出した。

驚いと戸惑いの入り混じった、彼女の瞳。

何かをいいかけた、響の口もと。

迷いなんてなかった。

たとえ一夏でも彼女に会えるなら、彼女の特別になれるなら。

これ以上の幸せなどないだろう。

戸惑う彼女の小さな手を、僕の貧弱な白い手が、しっかりと握り締めた。

そしてその瞬間に、僕の存在は永遠になった。

永遠に、なれたんだ。