タイヤが大きめの石を踏んだのか、車がガタンと揺れた。

山奥の田舎町のことだから、道路の舗装が行き届いていないのだろう。

「起きた?」

運転中のお母さんが、バックミラー越しに訊いてくる。後部座席に突っ伏していた私は、起き上がると精一杯伸びをした。

「今どこ?」

「もうすぐ着くわ」

あたり一面には杉の木が鬱蒼と茂り、ところどころ陽だまりが落ちている。薄暗い地面できらきらと瞬く陽だまりは、まるで宝石のようだ。
窓越しに景色に見とれているうちに、車は林道を抜けた。

「きれい……」

林を抜ければ、そこは湖だった。

照りつける真夏の日差しに、エメラルドグリーンの水面が反射している。水面にはまるで鏡のように、青空に伸びた入道雲が鮮明に映り込んでいた。

水べりには、古いボート小屋が佇んでいる。だけど湖には遊泳中のボートはないし、そもそも辺りには人っ子一人いない。

「相変わらず、この世から忘れられたみたいに静かなところね」

お母さんの声を聞き流しながら窓を開ければ、生暖かい湖畔の風が私の頬を撫でた。澄んだ水と葉っぱの匂いを、お腹いっぱいすうっと吸い込む。