いつもと変わらない帰り道。

──のはずだった。

「……これも、インサニティの影響、なのかな」

まず、サイレンが止まない。

火事が目の前で沢山起こってる。

人が空飛んでる。

ドラゴンみたいなやつがいる。


やべぇ、どっから突っ込めばいいんだこれ。

「よお、巫」

聞き慣れた声がした。

「……瞬。随分変わったな」

「『インサニティ』って言うらしいな、これ。体が軽い…軽すぎるぜ」

コイツの名前は伊山瞬。俺のクラスメートだけどあまり俺は好きではない奴だ。
どうせ冷やかしにでも来たのだろう。

「で?何の能力を手に入れたんだよ」

「──速度だ。50mなら2秒半で走れるようになったぜ」

「測ったのか?」

「予想だ」

やはりいけ好かない。当たり前に嘘をつくような奴とは波長が合わないのかも。

「まぁいいや、おめでとな。俺は忙しいから帰る」

「おいおい、待ちなよ永哉……インサニティ、手に入れる気は無いのか」

「俺は能力なんて手に入れる気は毛頭ない。自分の能力を過信して孤独になるような奴にはなりたくないし」

「へぇ、まるで自分がそういうやつを今までに見てきたみたいな言い方するな」

てめえの事だ。

「てめえの事だ」

………あ、口が滑った。

「は?今なんつったよ、ええ?もういっぺん言ってみな。その瞬間てめぇは俺の能力──『ブラックヘイズ』で死ぬ」

「てめえの事だ。聞こえなけりゃ何度でも行ってやるよ。てめえの事だってな。後てめぇの能力なんざ興味無い」

「……死にやがれ!!」

その瞬間、瞬が視界から消えた。

「永哉ァ……いけ好かねぇんだよてめぇが…!人の邪魔ばかりしやがって!」

近くの建物の屋上から見下ろされている。速い…これがインサニティの能力なのか。

「その言葉、全部てめぇに返すよ。下らないナルシズムで中学高校と他人の邪魔ばかりして、お前にはうわべだけの友人しかもういない。──『孤独』なんだよもう」

「黙りやがれ!殺す!」

「やってみろッ!!人を殺したこともない奴が……軽々しく『殺す』なんて言葉を使うやつが……躊躇わずに殺せるはずないだろうが!」

瞬が少し怯んだ。……少し落ち着いてくれただろうか。

「……いや……てめぇの戯言なんぞに騙されてここで行動を辞める訳にはいかねぇ!殺す……『覚悟』を決めたぜ」

あぁ、ちょっとこれはヤバいかな。でも……

「……救えない奴だ」

一直線に突進してきた。……どうしよ、避けられない。

「永哉!てめぇは俺が殺」

「貴方もインサニティ感染者かしら」

瞬に看板が当たって吹っ飛んだ。

「能力のこと覚えてたね」

「うっさい」

──妙に落ち着いていた。まるで今聖恋が来ることが分かっていたかのような……

「随分落ち着いて喋るね。私が来なかったらどうするつもりだったの?」

「来たからいいじゃん。他の可能性なんて考えたくない」

「そ。んでこの子どうすればいい?気絶したよ?」

「まだ用事がある。俺が何とかする」

「じゃあ私は別の感染者の所に行く。何かあったらこの番号に連絡して」

そういうと彼女は電話番号が書かれた紙を渡して去った。……今の時代普通電話とかじゃなくてLINEとかあるのに何か時代遅れというか……。

「おい瞬。目を覚ますんだ」

「ん……んー…」

「起きろよ。お前さっき『インサニティを手に入れる気はないのか』とか言ったな。知ってるのか」

「あぁ……知りたいなら……ここから南に3キロ道なりに行った遊園地の観覧車の一室にメモが置いてあるからそれを見るんだな」

「そうか」

「──死ぬなよ。命は大事にしな」

脅しにも取れるかもしれないけど、そう言って場を後にした。