柊 聖恋と名乗ったその女の子の目が、赤く光った。

「──ふふ、驚いた?私はもう──」

「『インサニティ』に感染しているわ」

「?……イン……なんだって?」

「『インサニティ』よ。四日前に突然広まり始めた新しい病気。紅い目はその証拠」

「はぁ。えっとその、インサニティっていうのは一体どういった病状が…?まさか目が紅くなるだけとか」

「──チカラが手に入ってしまう。人外な、常軌を逸した力が」

「え」

意味が分からない……あれか、マジの厨二病なのかな?

「信じてないでしょ」

「いや、うん…そりゃぁ、ね」

「……そう、これを見てもそう思うかしら」

そう言うと、聖恋は転がっていた石を空中に投げ──

──固定した。

「え!?石が空に……くっついて……?」

「ふふ……ね、本当でしょ。これが私のチカラ──。能力の名前は『ルナライズ』」

「ど、どういう原理で……?っていうか名前を付けてるの?」

「どうもこうもないよ。私が思えば物体が止まる。それだけの事だしこういう能力って漫画とかじゃ大体名前ついてるじゃん」

……意味わかんないし怖いんだけど……

「その、じゃあなんでさっき竜巻で吹っ飛んだ瓦礫を止めなかったの?」

「いや……え、っと……それは……」

急に顔を赤らめて目線を逸らした。

「自分の能力のことを忘れてただけ……」

……アホなのかな?いや確かに能力を忘れるのはよくよく考えれば普通なのかもしれないけど。
さっきまでカッコつけてたのにこれじゃあ……

「あー!今絶対私の事ドジっ子だって思ったでしょ!」

「いやいやいや、そんなことないし…?それにそう言っちゃうと自分がそういうドジっ子なのを理解してるのを暴露してるような……?」

「…………。な、名前は?」

話を逸らしやがったよこの人……

「巫 永哉。永哉でいい」

「OK、覚えとくね。私はもう行かなきゃならないからそろそろ別れよっか、助けてくれてありがと!」

そういうとすぐに彼女は走って竜巻の方向へ向かっていった。

「ちょ、待っ…」

正直心配すぎる。割とポンコツそうだし…

「何だったんだ、今の」

状況が判断できない。インサニティ……『能力』を付与する病気。そんなものが本当に存在しているのか……

考えるのがだるくなったからさっさと帰ることにした。