チャイムが鳴り、号令の後先生が教室を出て行くのと同時に、静まり返っていた教室内が嘘のように騒がしくなる。
休み時間、私は普段誰も談笑する相手はいないけど、今日は意を決してバッと後ろを振り返った。
そこには次の授業の準備をしている一見いつも通りの黒井君。
夢の中で見たのと全く一緒のように見えるあの黒井君がいる。
「あ……あのさ」
「何?」
手を止め、顔を上げた黒井君の視線と自分の視線がぶつかり合う。
あの部屋で見た黒井君と同様に、やはり表情は読み取れない。
私は少し興奮気味に言う。
「あの、さっきのこと、覚えてる?」
「さっき?」
ここにきて重要なことに気がついた。
さっきのことが紛れもない夢だったのだとしたら(むしろ夢であってほしいためにその確信が欲しいのだけど)、黒井君に私はどう映るだろう。
「さっき授業中見た夢にあなたが出てきました!あなたは私の夢に自分が出てきたことを覚えてる?」なんて、ほとんど話したこともないただのクラスメイトに突然言われたら間違いなくおかしな人だと思われてしまう。
……むしろ恐怖すら感じるわ。
途端に、今まであった興奮の種はみるみる内にしぼんでいった。
「……ごめん、思い当たることがなければいいの。
何か勘違いしてたみたい。
変なこと聞いてごめんね」
「そう」
黒井君は素っ気なかった。
それは多分、さっきのことが全て夢だったということを証明しているのだろう。