「夜の街は酷く冷たく、私が佐藤を見たのはこれが最後であった」


カタン、と教壇に立つ現代文の先生が教卓に教科書を置く音が響いた。


「はい、ありがとう。
では、問題文に入っていきます。34ページ開いてー。
……皆に読んでもらった3段落目の鍵カッコ、佐藤が言ったこの言葉だけど……」


驚き、というより唖然としてしまった。

だって"目が覚めた"という感覚ではなく、むしろ元から何もなく、"停止していたものを再開させただけ"のようなそんな感覚だったから。

私は机に伏せるでもなく、シャーペン片手に問題文に目を向けた状態から日常に戻っていた。

正確には戻ったのだと感じた。


寝ていた……んだよね。

黒板の上の時計を見てみる。

眠ってしまうまでの時間がそもそも分からないので、何分か経っていたようにも思うし、そうでもないようにも思えた。


妙にリアルな夢だった。

もしかしたら夢などではなく、何か他の、もっと経験したことのないような"何か"なのではないかと思えるほどに。


あぁ、なにこれ。この不可解な感覚。

誰かに話して冷静になりたい。

そんな感情を持ったのは随分久しぶりのことだった。


黒井君はどうなのだろう。

もしその"何か"があるとすれば黒井君もその一端に触れているかもしれない。


授業が終わるまでの30分間、私は後ろの席の黒井君が気になって気になって、全く集中できなかった。