「分かってるなら早く決めてしまいなさい。
大学によって必要な勉強方法は違うんだから迷ってる暇はないわよ。
学歴は人生を決めるんだからね」

「はい」


それきりで、母は食器を食洗機に入れ、ダイニングから出て行った。


それなりの広さの一軒家。

モデルルームのように綺麗に並べられた必要最低限の家具に囲まれて、一人。

残りのご飯を口に運ぶ。


最近、何を食べてもあまり美味しいと感じなくなった。

最近、何をしていてもあまり楽しいと思わなくなった。

最近、何のために生きているのか分からなくなった。


小さな頃から色々なことをやってきたけど、どれもそこそこで、決して一番になれることはなくて。

高校入試だって、母の勧めの難関私立は落ち、家から近いそこそこの公立高校に通っている。


友達はできず、特筆して得意なことはなく、将来に何の希望も見出せないまま家と学校と塾を行ったり来たりするだけの日々。


私の日常はどこまでも灰色で、閉塞的で、光が差さない。


そうか。

あの部屋は私そのものだ。

閉塞的で、空っぽで何もなく、光が差さず、どことも繋がっていない。

真っ白なのは自分に対する皮肉なのかもしれない。



そこで唯一の例外が黒井君の存在だ。


「……黒井君って何」