母は自分だけではなく、娘である私にも完璧を求めた。


小さい頃から「絵美は将来、公務員か一流企業に勤めるのよ」と言われて育ち、沢山の習い事をさせられた。

副教科が足を引っ張らないようにと、塾や英会話の他にピアノ、習字、スイミング、体操とほとんど毎日何かしらの習い事に出かけなければならなかった。


遊んでいる時間など当然無く、小学生の頃トイレの個室に入っていた時「絵美ちゃんってつまらないよね」という、当時親しいと思っていたクラスメイト達の話し声を聞いたのをきっかけに、少しずつ人と距離を置くようになった。


「ごちそうさま。
お母さん部屋で仕事するから、食洗機回しておいてちょうだい」


立ち上がり、全てを食べ終えて空になった茶碗の乗ったプレートを持った母が言う。

母は少し疲れた顔をしていた。


「分かった」


私の返事を聞き、立ち去ろうとした母は何かに気づき振り返る。


「絵美、志望校はもう決めたの?」

「まだ」

「まだって……絵美、分かってる?もう6月よ?
あなたは国立大か名前の通った私立大に行くんだからね」

「分かってる。
勉強はちゃんとしてるから」