「ただいまー」


玄関の扉を開き、返って来るはずのない挨拶をするのはなぜか習慣になっている。

靴を脱いでいると、キッチンの方から物音がした。


「おかえり。
夕ご飯できてるわよ」


廊下の突き当たり、キッチンから母が顔を出した。

いつもなら絶対いるはずのない時間なのでかなり面食らってしまう。


「何ボーッとしてるの。
さっさと手洗って着替えてきなさい」

「……は、い」


促されるまま、流れるように手を洗い部屋着に着替え、二人掛けのダイニングテーブルに着く。

ちらりと対面に座る母を見ると、こちらを一切見ることもなく、手作りのハンバーグに箸を付けている。

私も「いただきます」と小さく言い、箸を手にする。

食卓にはご飯、味噌汁、ハンバーグとサラダ、麦茶が1つのプレートに乗せられていて、それが私と母の二膳分が配膳されている。

完璧に、きっちり同じように並んでいて、何だか食品サンプルみたいだなと思った。