「白だ」


目の前に広がる非現実を前にして漏れ出た最初の言葉は、あまりに身も蓋もないものだった。

でもそれはこの空間を表すには十分なもので、よく考えても"白"の他に言い表しようがないようにも思えた。


……何だこれ。


昼食を取り終え、ホームルームである3年1組の教室で5時間目の現代文の授業を受けていたはずだった。

授業の内容だって覚えている。

教科書の今日取り組む小説の文章を、教室の左列の前の人から後ろの人へ、段落ごとで順番に読み進めていて、授業の進行具合から私の番が来るまでに読み終えることが明らかだったので、早々に読み終え、問題文に目を通し始めている最中だった。

そのはずなのに。


手元の教科書がない。

それどころか、先生がいない。生徒がいない。

黒板も、時計も、窓も扉も照明も。

音楽室から漏れる微かな合唱の声や、グラウンドから聞こえる体育の授業の音も全部。


あるはずの何もかもが、全てなくなっていた。