隣のシートのおじさんが、怪訝な顔で様子を窺っているのが気配で伝わる。
私は、ずずっと鼻を啜りながらシートに凭れて窓側へと身体を傾けた。


身体で隠すようにして、携帯の画面にもう一度目を落とす。
その文字すら愛おしく、指先でそっと撫でた。


『愛しい、愛しい。大好き』


その言葉を送れたら、どんなにか良いだろう。
涙がぱたぱたと画面を濡らし、私は擦れた声で呟く。



「ごめんね」



返事をする、勇気もない私だけれど、遠く離れた空の下で、亮輔の幸せを祈ってる。


今は胸が痛くても。
いつか、私なんかより可愛いくて、料理上手で遅刻をしないしっかり者の女の子を捕まえて、幸せになってくれればそれでいい。


だけどもし、いくつもの月日が流れても、あなたがまだこの恋の傷痕に捕らわれたままでいてくれたなら……その時は、「ただいま」って言わせてください。


携帯を胸に抱きしめて、窓の外へと目を向ける。
滑走路を加速しはじめた飛行機が、やがて鼻先をくんっと上向けたのを身体で感じた。


空高くに届く頃には、目の前には真っ白な雲の海と傷一つない青空が広がっていた。



End