ふと、途切れた会話の隙をついて、亮輔が前を向いたままぽつりと言った。
「明日、見送りには行けないなあ」
「仕事だもんね。いいよそんなの」
見送られたら、泣いてしまいそうだ。
こうして歩いているだけでも、思い出に押し流されそうなのに、別れ際にあなたの顔を見る勇気はない。
明日の話なんて、しないで欲しかった。
この温もりを感じるのは、今日で最後にしないといけないのだから。
合わせた手の温もりに目を閉じる。
すると不意に、きゅううっと力が込められた。
「加奈、俺、」
亮輔が何を言おうとしているのかは、すぐにわかった。
「待たなくていい」
被せるように言った私に、彼は続く言葉を失った。
“ずっと待ってるから”
きっと、それは亮輔の本心だろうけど。
無理でもあると思うんだ。
「いいよ、待たなくて」
今まで散々、待たせておいて、肝心なとこで、逃げてごめん。
遠く離れて信じ続ける勇気が、私にはなかった。
あなたに無いことも気付いてた。