思えば私は、子供の頃からいつも彼を待たせてばかりだ。

隣の家に住む幼馴染の彼は、小学生の時から毎朝約束した時間通りに誘いに来てくれた。
なのに私はいつも時間ギリギリで、よく母親に怒られながら階段を駆け下りたものである。


玄関先でランドセルを背負った彼は、半泣きで靴を履く私を急かすことなく待っていてくれた。
そのせいで何度も一緒に遅刻して、怒られたり反省文を書かされたりと、随分と付き合わせてしまった。


高校、大学と別々になって一緒に通学することはなくなっても。
ただの幼馴染から恋人になっても、私のマイペースぶりは相変わらずだった。


デートの服が決まらなくて遅くなり、結局約束の時間を過ぎて二階の自室の窓から玄関先を見下ろす。


彼はタイミングがわかっていたかのように、こちらを見上げた。



「ごめん、亮輔!」



と窓越しだから声は聞こえないだろう。
ジェスチャーで伝えると、亮輔は苦笑いで組んだ腕を解き自分の足元を指差した。



”ここで待ってる”



そういう意味。


いつもと変わらない、その笑顔にずきんと胸が痛んだ。
最後のデートだというのに、やっぱり私は今日も彼を待たせてしまった。