あまりに真剣な表情に一瞬ドキリとしたが、この手の告白は本気にしてはいけない。
 以前にも何人かそんな生徒はいたが、のらりくらりと躱している内に卒業し、それきり音沙汰がない。

 極めて冷静に対処する。

「知ってるよ」

 堤は一瞬驚いたように目を見開くと、すぐに嬉しそうな、はにかんだ笑顔を見せた。

「知ってたんだ」
「あぁ。だっておまえ、毎日、挨拶代わりに言ってるじゃないか」

 途端に堤はふくれっ面になる。分かりやすい子だ。

「そうだけど……本気なの!」

 それは勘違いだ。

 堤は再び、真剣な眼差しを俺に注ぐ。

「先生は? 答を聞かせて」

 俺の答なんて、聞かなくても分かるだろうに。
 堤は生徒で、俺は教師だ。俺が彼女に対して、恋愛感情は元より、好き嫌いの感情を抱いてはならない。

 俺は少し笑みを浮かべると、意地悪く堤に言う。

「いいよ。俺の出す問題に答えられたらね」

 堤は不服そうにわめく。

「えーっ、またぁ? 先生、そればっかり」

 そればっかりって、去年に一回しかやってないと思うが――。

「授業を聞いていれば分かる簡単な問題だ。とりあえず、こいつを片付けさせてくれ。劇薬を持ったままじゃ、俺も落ち着かない」

 薬ビンを掲げてみせると、堤はブツブツ言いながら、出口へ向かった。