堤に戸を開けてもらい、二つの薬ビンを持って隣の化学実験室へ移動する。

 机の上に薬ビンを置き、ビーカーを三つ並べると、二つのビーカーにそれぞれの薬品を10mlずつ注いだ。
 堤は机を挟んで正面の椅子に座り、珍しそうにその様子を眺めている。

「混ぜるぞ。よく見てろ」
「煙とか出たりしない?」

 堤は身を引いて口を両手で塞ぐ。

「有毒ガスは発生しない。いくぞ」

 二つのビーカーから真ん中に置いたビーカーへ、同時に薬品を注ぎ込む。どちらの薬品も混合液も無色透明なので、見た目に変化は現れない。
 少しの間混合液をガラス棒でかき混ぜ、俺は笑顔でビーカーを堤の前に差し出した。

「超劇薬が出来たぞ。舐めてみろ」

 堤は顔をしかめて、のけぞる。

「絶対、イヤーッ!」
「大丈夫だ」

 俺が更にビーカーを差し出すと、堤はゆっくりと身を乗り出して、ビーカーを覗き込んだ。そして、上目遣いに俺を見つめる。

「指が溶けたりしない?」
「しない」

 堤は人差し指を素早くチョンと液につけ、恐る恐る舌先に乗せた。
 次の瞬間、彼女の目は一気に見開かれた。

「しょっぱい! 何、これ。塩水?」

 予想通りの反応に、思わず頬が緩む。