「そうだ、先生。お守りにするから、第2ボタンちょうだい」
「もう試験は終わったんだろう?」
「うん。だから後は神頼みなの。先生のボタン御利益ありそうだし」

 理系ってとこしか繋がりはないような気がするが、事後に御利益って期待できるんだろうか。

「なんで第2ボタンなんだ。そういうのは学生同士でやるもんだろう?」
「女同士でやったって、虚しいじゃない」

 バレンタインデーに女同士で、チョコレートの交換をしていると聞いたけどな。

 ――という事は、そういう意味も含んでいるのか。卒業式に好きな人の第2ボタンを貰うという、一種の告白。学生の時、そんな申し出を受けた事は一度もなかった。

 堤の俺に対する想いは、てっきり冷めてしまったものだと思っていたので、意外だった。

「藤本先生じゃなくていいのか? よく一緒にいただろう」

 堤はキョトンと首を傾げる。

「なんで藤本先生? 藤本先生には数学を教えてもらってたの。積分とか、ほとんど授業でやってないし」

 そう言った後、堤はイタズラっぽい笑みを浮かべて、上目遣いに俺を見つめた。

「もしかして、ヤキモチ?」

 俺は堤の額を、手の先で小突く。

「バーカ」

 ちょっと図星だった。
 俺は上着のボタンを外して、堤に差し出した。

「いいよ。持って行け」
「わーい」