どれだけ一生懸命に努力したんだろう。堤の化学の成績からすれば、昨日帰ってから初めて覚えようとしたはずだ。
 宿題があったかもしれない。他の授業だってある。時間はそれほどなかっただろう。

 堤の努力と成果に、抱きしめて祝福してやりたい衝動に駆られる。
 だが俺は、これから彼女に、心ない答を告げなければならない。

 今分かった。自分が何のために、堤に難題を突きつけたのか。
 俺は堤に抱いてはならない感情を抱き始めている。

 堤が他の生徒と同じように、疑似恋愛を楽しんでいるだけなら、自分を制して今まで通りに接する事が出来るだろう。
 しかし堤の本気が確認できたら、俺から遠ざけようと思ったのだ。俺がマチガイを犯さないように。

 目を閉じたまま黙り込む俺に、堤が不安そうに声をかけた。

「先生? どこか間違ってた?」

 俺は目を開き、堤を見据える。

「いや。完璧だったよ。よく頑張ったな」

 そう言って少し微笑むと、堤も嬉しそうに笑った。そして早速、対価を要求する。

「じゃあ、先生の答を聞かせて」
「あぁ。はっきり言おう。俺はおまえの想いに応える事は出来ない」

 堤から笑顔が消えた。