「だったら猶予を与えよう。教科書の表紙裏にある元素の周期表、1番から89番まで順番に全部言えたら、俺も本音でおまえの質問に答えるよ。ランタノイドとアクチノイドはひとまとめでいい」
「へ?」
堤の頭の上に?マークがたくさん浮かんで見えたような気がしたが、気にせず続ける。
「周期表を見れば分かる。試験問題に出た事があるだろう? 一度は覚えようとした事があるはずだ。チャンスは1回。明日の放課後、ここで、おまえの本気を証明して見せて欲しい」
「わかった」
堤は短く答えて背を向けると、今度はちゃんと挨拶をして教室を出て行った。
堤を見送った後、俺は力が抜けたように椅子に腰掛けた。額に手を当て、目を閉じる。
自分がいったい何をしたいのか、よくわからない。
堤が本気で化学に取り組んでいる姿は見た事がない。だから周期表を覚えられるかどうかなんて、わからない。覚えられないと思っているわけでもない。
たとえ堤が完璧に覚えてきたとしても、彼女が望む答を与える事は出来ないのに。
嫌な事を強いた上に、傷つけてしまう。これではイジメと変わらない。
堤はどうして明確な答を欲しがるのだろう。どうせ卒業と共に想いが消えてしまうのなら、俺の答を聞いて、わざわざ嫌な思いをしなくてもいいのに。