「羽坂」

私の上から、池松さんが見下ろす。
いいですよと自分から唇を重ねた。
これも、――池松さんの気持ちを、楽にするため。

いまだに池松さんは私に、好きだとか愛しているだとかは言ってくれない。
でも最中に私の名前を呼んでくれる。

池松さんの気持ちの整理がつくまで、いつまででも待とうと思った。

でも――そんなことを言っていられない事態になった。



「妊娠五週目です」

「え……」

医師の言葉に自分の耳を疑う。

検査キットでは陽性が出ていたけれど、でもまだどこかで、なにかの間違いじゃないかって思っていた。

病院からの帰り道、ひたすらどうしたらいいのか考えた。

池松さんにこんなこと、言えない。
それに、いまの池松さんの気持ちがわかっていながら、なあなあで済ませていた自分も悪い。

「どうしよう……」

考えすぎて吐き気がしてくる。

堕ろしたくない。
池松さんの子供なら、産みたい。

でも、いまの池松さんに受け入れてもらえるかはわからない。

「話すしかないんだよね……」

軽率だった自分の行動を、呪った。


翌日、池松さんを喫茶店に呼びだした。

「どうした、改まって」

話なら家ですればいいのに、外に呼びだされて池松さんは怪訝そうだった。

「その、あの……」

妊娠したって言えばいいのはわかっている。
けれど言ったあとの池松さんが想像できなくて、なかなか言えない。

「えっと、その……」

「どうした?」

心配そうに眼鏡の下の眉が寄る。
言えば池松さんはどうするのだろう。

喜ぶ?
怒る?
悲しむ?

やっぱりどれも、想像できない。
でもいつまでも、黙っているわけにもいかない。

「……妊娠、しました」

「は?」

池松さんの目が、真円を描くほどまん丸く見開かれた。

「えっ、あっ、そうか。
うん、そうか。
そうか、そうか」