おじさんは予防線にはなりません

はぁーっ、聞いているこっちが陰気になりそうなため息を落とし、すごすごと本多課長は椅子に座り直した。

「……私の一存では……なんとも……。
……外川部長に……相談してみないことには……」

「とにかく。
今月いっぱいで辞めますので、よろしくお願いします」

「……はぁーっ」

返事の代わりにため息が返ってきたけれど、無視して自分の席に戻った。


休み時間を利用して派遣会社の担当、早津さんへも連絡を入れる。

『なにかあったんですか!?』

早津さんは慌てているけれど、まあそうなるだろう。
それでなくても人が居つかない職場なんだから。

「なにもないです。
その、一身上の都合、で」

『もしかして、田舎に帰る……とか』

「あー、違います」

だったら、どんなにましだっただろう。
いや、それもひとつの手かもしれない。

『今日、終わってからとか会えませんか』

「あー、はい。
わかりました」

終わったら派遣会社で、そう約束して電話を切る。
約束はしたものの私は彼に、うまく辞める理由を話せるのだろうか。

今朝、いまの派遣先を辞めようと決めた。
池松さんの気持ちを知ったいま、もうここにはいられない。

片想いでもかまわないと思っていた。
報われなくても、ただ傍にいられたら、って。

でも、どんなに想っても無駄なんだと現実を見せつけられたいま、傍にいるのはつらすぎる。

「既婚者に失恋したから、なんて言えないよね……」

帰るまでに早津さんが納得してくれそうな理由を探さないといけない。



仕事が終わり、重い足を引きずって派遣会社へ向かう。
結局、適当な辞める理由は思いつかなかった。

「わざわざすみません」

待っていた早津さんは、すまなさそうな顔をした。

「それで。
マルタカを辞めたいってことなんですが……」

うかがうように彼が私を見る。
難しい職場で半年も続いた私が辞めるとなると、いろいろあるのだろう。

「はい。
十月からの契約延長したのに申し訳ないですが、今月いっぱいで辞めさせてください」

誠心誠意、あたまを下げる。
無理を言っているのはわかっていた。
つい先日、十月からさらに半年の延長契約をしたばかりだから。

「その、羽坂さんにも都合があるんだと思います。
一応、理由は聞かせてもらわないと」

「そう、ですよね」