「ん?
用はねーわ」

「はい?」

いたずらっぽく八重歯を見せてにやっと笑う池松さんについ、首が傾いてしまう。
用があるからわざわざ私のところに来たんじゃないんだろうか。

「ただ、今日も羽坂の眉間に、消えないくらいふかーい皺が刻まれてないか見に来ただけ」

「あ……」

つい、自分の眉間にふれてしまう。
きっとさっきはふかーい皺が刻まれていただろう。

「落ち込んだときは糖分補給」

差し出された拳に手を出すと、その上にパインアメが落とされる。
池松さんはもう一個ポケットから出して、自分の口にぽいっと入れた。

「ほんとは本多さんがもうちょっと、気遣ってやればいいんだけどな。
あの人、ここに配属されてからどんどん、影と髪が薄くなっていったからな」

「……」

そこは笑っていいのか判断に苦しむ。

本多課長が私の父より若いと知ったときは思わず二度見してしまった。
どうみても本多課長の方がずっと年上に見えるのだ。

「まあその分、俺が愚痴でもなんでも聞くわ」

椅子から立ち上がり、池松さんはひらひらと手を振って行ってしまった。
いなくなって、もらったパインアメを自分の口に放り込む。

……池松さんにはかなわない。

私が嫌な思いをしているといつも、ふらっとやってきて励まして去っていく。
きっとまだ、この会社を辞めずにやっていけているのは池松さんのおかげだと思う。

「元気も出たし、この領収書、どうにかしなきゃね」

毎回くれるパインアメは、私の元気のスイッチを押してくれる。
気合いを入れ直して私は、仕事の続きをはじめた。