たわいのない話をしながら食事は進んでいく。

「羽坂が来てもう半年か。
けっこう続いてるよな」

もう九月も半ばに入った。
酷い環境で、一日でめげそうになったけれど、まだここで働いている。
それもこれも。

「池松さんのおかげです。
……あと、宗正さん」

池松さんがなにかとフォローしてくれたから、ここまで頑張れた。
大河も、ああなる前は私を支えてくれた。
ふたりには感謝しかない。

「俺はなにもしてない。
羽坂が頑張ったんだ」

ううん、首を横に振る。

「池松さんのおかげです」

「……そうか」

短くそれだけ言って、池松さんはおちょこを口に運んだ。

お酒が進むにつれて、ぽつりぽつりと奥さんのことを池松さんは話しだした。

「妻とは高校が一緒だったんだ。
昔っからああいう性格で、でもそんなところが好きで。
……それで、付き合った」

もそもそとお肉を食べている池松さんは完全にらしくない。
そういう姿は苦しくなる。

「けどやっぱり、俺と付き合ってるのに平気でほかの男と遊びに行くのが耐えられなくて、別れた。
……なのに」

くいっ、一気におちょこに残ったお酒を池松さんが飲み干すので、お銚子を掴んで注ぐ。

「同窓会で再会して、懐かしいのもあって話が弾んで、そのまま勢いで入籍した。
若かったんだな、あの頃は」

苦笑いを浮かべ、また一気にお酒を飲み干す。
すかさずお銚子を差し出すと、池松さんはおちょこで受けた。

「あれから十三年、か。
あの世理にしては長く続いたんじゃないか。
だいたい、最初からわかってたんだ。
いつか世理はいなくなるって」

くいっ、池松さんがお酒をあおる。
再び注ごうとしたお銚子は空になっていた。
新しいお酒を頼もうとしたが、止められた。

「まあ、しょうがないよな」

笑う池松さんは酷く淋しそうで、私の方が泣きたくなる。

――だから。

「私でよかったら、池松さんを慰めてあげます」

「羽坂、君、なにを言って」

「私じゃ、代わりにもなりませんか」

じっと見つめた、レンズの向こうの瞳は、迷うように揺れていた。

「……そう、だな」

おちょこを口に運びかけ、空だと気づいてテーブルの上に戻す。
それっきり、池松さんは黙ってしまった。