おじさんは予防線にはなりません

「別に羽坂があやまるようなことじゃないから」

再び、沈黙が訪れる。
ただひたすら黙って、食事を口に運んだ。

「ごちそうさまでした」

「ん。
おそまつさん」

朝食が終わり、池松さんは後片付けをはじめた。

「あの、手伝います」

「いいから、座っとけ。
それより二日酔いは大丈夫か。
って、あんだけ食えたら平気か」

「ご迷惑をおかけしました」

苦笑いの池松さんへ私も苦笑いで返し、お言葉に甘えてソファーに座る。
携帯にはいくつも大河からメッセージが入っていた。

【ごめん、ちょっと布浦うっとうしくて外出てた】

【池松係長が送っていったらしいけど、ちゃんと帰り着いた?】

【もしかしてもう、寝てる?】

【詩乃いま、どこいるの?】

【まさか池松係長と一緒だなんてないよね】

【大丈夫だって信じてるけど】

【詩乃いま、どこにいるの?】

心配している大河へ、返信を打ちかけて指が止まる。

昨晩、私は池松さんの家に泊まった。
それだけならまだいい。
池松さんはなかったことにしようとしたけれど、キスしたのは事実だ。

そんなの――大河に説明できない。

「そろそろ出るぞ」

「あ、はい」

結局、返信はしないまま携帯を鞄にしまう。
玄関のドアノブに池松さんが手をかけたところで、反対側から開いた。

「たっだいまー」

ドアを開けた女性――世理さんは、朝だとは思えないほどハイテンションだ。

「あっれー、めずらしー。
和佳が女の子連れ込んでるー」

けらけらと世理さんが笑い、池松さんは苦々しそうに顔をしかめた。

「……羽坂が酔い潰れて寝落ちたから、仕方なく連れて帰っただけだ」

「えー?
別に言い訳しなくていいのよー。
だいたい、互いに浮気は公認でしょ」

靴を脱ぎ、世理さんが部屋の中へと消えていく。
私はどうしていいのかわからずに、ただ突っ立っていた。

「あー、化粧品、使ったんだー」

寝室から世理さんの声が響いてくる。
もしかして、マズかったんだろうか。

「まだ時間あるー?
ちょうどいいからいろいろ、羽坂さんにあげたいんだけどー」