おじさんは予防線にはなりません

狡い、けれど事実、だ。

「それでもいい、です」

池松さんの顔が、ぐるぐる回る。
なにか言っているけれどよく聞き取れない。
そこで記憶が、途絶えた……。



「んー……。
いま、何時……?」

枕元を探り、携帯を掴む。
時間を確認したら、起きるにはまだ早かった。
二度寝を決めこもうとして……違和感に、気づいた。

「……?」

もそもそと起き上がり、辺りを見渡す。

あきらかにそこは、私の部屋ではなかった。

寝ていたのはいつもの狭いシングルベッドじゃなく、広いクイーンサイズのベッド。
白を基調にした清潔な部屋は、おしゃれな映画にでも出てきそうだ。

というか、ここ、どこ!?

慌ててベッドを抜け出て、部屋を出る。
着ていた服は昨日のままで、ただしそのまま寝ていたのでしわしわだ。

「おー、羽坂、起きたのか」

ソファーから起き上がった池松さんがボリボリとあたまを掻いている。
彼の方はTシャツにハーフパンツと、家着のようだった。

「お、おはようござい、……ます」

なんだかばつが悪く、きょときょとと視線が泳ぐ。

「んー、シャワー浴びてこい?
着替えは……」

立ち上がった池松さんは私が出てきた部屋へ消えていった。
少しして服を抱えて戻ってくる。

「妻のだが、未使用だからいいだろ。
風呂はそこ、だから」

「ありがとう、ござい、……ます」

渡された服を持って、示された浴室へ急ぐ。
戸を閉めるとはぁーっとため息が落ちた。

……ここ、池松さんの家なんだ。

なんで自分が、池松さんの家にいるのかわからない。
いやきっと昨晩、酔い潰れてしまって迷惑かけたというところか。

「……最悪」

服を脱ぎながら、ふと手が止まる。

「私、昨日、池松さんと……キス、した?」

自分からあの薄い唇に自分の唇を重ねたのはかろうじて覚えている。
思い出すとあまりにも大胆な行動に、顔から火を噴いた。

「でも、池松さん……」

そっと、自分の唇に触れてみる。
応えてくれたあれ、は夢だったんだろうか。

「とにかく。
これ以上、迷惑なんてかけられないから」

慌てて現実に戻り、シャワーを浴びる。