おじさんは予防線にはなりません

ドン、池松さんが私の隣に腰を下ろす。

「ビールでいいか」

「ありがとう、ござい、ます」

差し出された瓶を、空いている自分のグラスで受けた。

「しかし、あれはなんだ?」

苦々しく顔をしかめて聞かれても、答えられない。
確かに彼女持ちのくせに女性にちやほやされているとか、普通だったら許されないだろう。
しかも、その彼女の前で。

……でも。
私は大河を責められない。

あの旅行から帰ってきて、大河とは微妙な距離ができた。
表面上はいままで通り、だけど前にみたいに、ガンガン攻めてこなくなった。
一歩だけだけど離れて私を見ている、そんな感じ。

きっと私が――大河に抱かれることができなかったから。

大河はもう、どんなに頑張ったって私が彼を好きになることはないって知っている。
だから。

「いいのか、あれ」

「いいんですよ」

ぐいっ、のどに流し込んだビールは酷く苦かった。

「羽坂がいいならいいが……」

池松さんは釈然としていないようだけれど、これは池松さんのせいでもある。

私が――池松さんを好きだから。

池松さんに罪がないのはわかっている。
これは八つ当たりだって。

「ん」

グラスが空になり、また池松さんが瓶を差し出した。
注がれたビールを一気に飲み干す。

「ピッチが速すぎやしないか」

「そう、ですか」

いまは飲みたい。
酔っ払ってしまって、すべてを忘れていたい。

「大丈夫か?」

「なにがですか」

眼鏡の下の眉が寄り、池松さんの顔が曇った。
ぐいっ、また一気にグラスを空ける。
けれど今度は、彼はビールを注いでくれなかった。

「羽坂、酔ってるだろ」

「そんなこと……」

さっきから、池松さんがゆらゆら揺れて見える。
あたまがふわふわして気持ちいい。

「ないれすよ?」

なぜか池松さんは手で口もとを隠し、私から目を逸らした。

「酔ってる。
君はもう帰れ。
おーい、宗正……っていない」

ちっ、小さく池松さんが舌打ちする。
宗正さんを呼ぼうとした彼に、イラついた。