「じゃあさ。
奥さんの話聞いて……池松係長を諦めないでいいと思ってる?」

無意識に指がびくんと動いてしまう。

考えなかったわけじゃない、世理さんが浮気しているんなら、池松さんだって浮気したっていいんじゃないかって。
それに浮気したところでそれは世理さん公認だ。

「なに、言ってんの?
私が好きなのは大河だよ。
池松さんのことなんて、もう、忘れたんだから」

声が上擦っていないか気になる。
震えそうな身体は手をぎゅっと握り込んで耐えた。

「……そう。
なら、いいんだけど」

小さく呟くように言った大河は、まっすぐ前を見て運転していた。

諦めると決めたのだ、池松さんを。
諦めて、大河を好きになって、大河を愛して、大河と幸せになるんだって。

なのに。

――いまさら迷うようなこと、知りたくなかった。