事前に予約をしていたのか、お昼は湖の畔の、カジュアルフレンチレストランだった。
窓からは湖が見渡せて気持ちいい。

「今日の詩乃、可愛い」

「そ、そうかな」

黒チェックのフレアスカートに白のカットソーを合わせただけなんだけど、大河は嬉しそうに笑っている。

「うん。
可愛い」

にこーっと笑われるとなにも言えなくなってしまって、熱い顔で俯いた。


昼食を食べ、手を繋いで湖の周りを散歩する。
観光地化されているのでおみやげ屋やちょっとしたお店が点在している。

「あ、詩乃に似合いそう」

ハンドメイドアクセサリーを売っているお店で、ビーズでできた繊細なバレッタを手に取り、大河は私の髪に当てた。
白でレースのように編み込まれているそれはとても可愛い。

「詩乃、好きでしょ、こういうの」

「うん。
買おっかなー」

「ピンクとブルーもあるけど……詩乃は白だね、白。
決まりっと」

バレッタを手にレジに向かっていく大河を慌てて追いかける。

「自分で買うから!」

「ダーメ。
旅行中は詩乃にお金、使わせないって言っただろ」

大河は私の制止なんて聞かずに、さっさとお金を払ってしまった。

「はい、詩乃」

「あ、ありがとう」

受け取るだけで、なんだか恥ずかしい。

『旅行中は詩乃、オレのお姫様だから』

出発してすぐ、大河に言われた。

だからお金は気にしなくていいし、なんでもわがまま言って、だって。

旅行の話のあと、有休取れたから休みのことは気にしないでいいよって大河には伝えた。
それでも、自分のわがままのために私が休みを取ってくれたのが嬉しいからなんだと、大河にしては珍しく、ぼそぼそと話してくれた。


湖の周囲をしばらく散策して、車に戻る。
駐車場出発し、街を出て山に入っていく。
くねくねと曲がりくねった道を登り森を抜けると、大きな旅館に出た。

「今日、泊まるのはここ」

いいよって断ったのに、私の荷物も持っている大河に付いて旅館に入る。
ロビーだけでも気後れするほど立派なのに、案内された部屋は広くてきれいで、いろいろ心配になってくる。

「大河、無理してない?」

「無理ってなに?」

追求を許さないようににっこりと笑われ、黙るしかない。