おじさんは予防線にはなりません

「まあ……あれだろうが」

目の前のパッキンケースに池松さんは苦笑いした。

「そうですね、そっちは相変わらずですけど」

私も苦笑いしつつ、新しいベルトを手に取る。

大河はペアリングで嫌がらせがやむのを狙っていたみたいだけど、じみーに続いていた。
ここまで酷いのはひさしぶりだけど。

「他は大丈夫です。
……慣れたっていうのありますけど」

マルタカのレディースファッション部勤務は最長記録を更新中だ。
ここの独特の空気にも慣れてきた。

「そうか」

ニヤリ、八重歯を見せて池松さんが笑う。
きっと池松さんにも私が言いたいことはわかっているんだろう。

「羽坂はよく頑張ってるもんな。
えらい、えらい」

池松さんの手が伸びてきて、私の髪をわしゃわしゃと撫でる。
上目で見上げると、サーモントブローの奥で目があった。

「ん?」

不思議そうに首を傾けた池松さんだけど……すぐにぴたっと手が止まる。
そのままみるみるうちに顔を赤く染め、ゆっくりと手を私から離した。

「……その。
……すまん」

目を逸らし、池松さんは照れくさそうに頬を人差し指でポリポリと掻いている。

「……いえ。
別に」

もう!
恥ずかしがらないでください!!

私の方が恥ずかしくなってくるし、……それに。
そんな可愛い姿見せられたら、胸がきゅんきゅんしちゃいますから!

でもそんなことをするのは、池松さんは私が宗正さんと付き合っているって信じ切って、ガードを完全に解いたからなんだろう。
以前と同じように接してくれるのは嬉しい。

――けれど同時に。

ますます私の手には届かない人なんだと、胸を押しつぶされ息ができなくなるほど苦しい。

「そうだ。
今度、うまいもん食いに行こう。
宗正も一緒にな」

「はい」

にかっと笑う池松さんに笑って返しながらも、ふたりきりじゃないのにがっかりしていた。



池松さんは言ったとおり、ごはんを食べに連れて行ってくれた。

――大河も一緒に。

大河は嫌がるかなって思ったけど、普通だった。

「今日は羽坂がいつも頑張ってくれている礼だ。
好きなだけ食え」