夏の盛りの眩しい季節だっていうのに、私の心は……どんよりと曇り空。
自分のはっきりしない態度のせいだっていうのはわかっているけど。

「盆休みは詩乃、どうするの?」

「お盆休み……?」

私が首を傾げると、大河はおかしそうに笑ってハイボールをくいっと飲んだ。

大河――宗正さんとの距離は若干、縮んだ。

あの日、布浦さんに絡まれていたのを助けてくれた日、お願いされたご褒美のせいかもしれない。

あれはほんとにもう、……恥ずかしかったけど。

でも、手を繋いで歩くくらいは平気になった。
たまに部屋に泊まることもある。

「オレ、お盆ずらして少し遅くに休みを取るんだけど。
できたら詩乃と泊まりで旅行に行きたいなー……なんて」

なんでもないように大好物のポテトをぱくぱく食べている大河だけど、実はものすごく勇気を出したんだってわかっている。
結構飲んでもあまり顔色の変わらない彼の耳が赤くなっているし。

「……派遣はお盆休みないから」

会社自体が閉まるなら別だが、マルタカの営業はカレンダー通りで決まったお盆休みはない。
社員は決まった日数、八月中に自由に取るようになっているみたいだけど。

「そっかー」

がっくりとうなだれた大河には悪いが、断れてほっとしている自分がいる。
このまま泊まりで旅行なんか行ったら、……流されてしまいそうで怖い。

大河はかなり楽しみにしていたみたいで、ポテトをもそもそ食べながら黙っている。
しっぽ丸めて耳もぺしゃんと垂れている大河わんこは非常に可哀想なので、日帰りだったら行ってもいい……かな。

「大河」

「じゃあさ」

同時に口を開いて苦笑い。

「詩乃どうぞ」

「大河が先でいいよ」

「じゃあ。
……オレが旅行の日、詩乃を雇うっていうのはどう?」

「……はい?」

ドヤ顔の大河を見つめたまま、ぱちくりと一回、大きなまばたきをしてしまう。

「オレが旅行で休ませて、詩乃の給料減るのいやじゃん?
だから旅行の日、オレが詩乃を雇うの」

すみません、ちょっとなにを言っているのか理解ができません。
というかそこまでして旅行に行きたいの?

「……ダメ?」

胸の前で指を組んで手を合わせ、うるうると瞳を潤わせて見つめられるともーダメ。

「……わかった」

「やったー。
……すみませーん、ハイボールひとつ!」

心配事はなくなったとばかりに、新しいお酒を頼む大河には笑うしかない。
ほんとつくづく、私は大河に甘いと思う。