おじさんは予防線にはなりません

「どれがいい?」

ショーケースの中には、片方だけでさっきのお店のペアを買っても優にお釣りがくるリングが並んでいる。

「やっぱり……」

「詩乃はどんなのが好き?
……あ、これ、見せてもらえますか」

宗正さんは私の話なんか聞かずに指環を選びはじめた。

笑っている、けど確実に宗正さんは怒っている。
ここまできてやっと、自分の軽率な考えを反省した。

宗正さんにとってペアの指環をつけるというのは女除け以上に大切な意味がある。

なんでそれを考えなかったのか、自分が情けなくなる。
ほんとに私は……最低な女だ。

「……大河。
私みたいな最低な女に、そんな指環買うことないから」

俯いた視界に宗正さんに握られた右手が滲んで見えた。

「もう遅いよ、買うって決めたから。
詩乃には俺の気持ち、しっかり受け取ってほししい」

離そうとした右手は指を絡めて逃げられないように、ぎゅっと握り直された。
涙がこぼれ落ちそうになって、慌てて鼻を啜って顔をあげる。

「……わかった」

目の合った宗正さんはいつもの可愛い顔じゃなく、凛とした顔をしていた。
その顔に心臓が切なげにぎゅっと締まる。

……どうして私は、この人を愛せないんだろう。

「ほら、これちょっとはめてみて。
あ、でも、それよりこっちがいい?」

気持ちを切り替えるようにぱっと宗正さんが笑い、担当についていた女性店員がすんと軽く鼻を啜った。
もしかして一連の流れで、恋愛ドラマなんかでよくあるいい話と勘違いされたんだろうか。

「ありがとうございましたー」

見送る店員の顔にはあきらかにお幸せにって書いてあって大変申し訳ない。


店を出て近くのカフェに入った。

「アイスティで」

店員を呼んだというのに宗正さんはまだ、メニューを睨んでいる。

「アイスコーヒーと……このレアチーズベリーパンケーキと、シトラスヨーグルトパンケーキ。
以上で」

「かしこまりました」

店員がメニューを下げていなくなり、宗正さんはぶーっと唇を尖らせた。

「詩乃また遠慮したー。
遠慮禁止ー。
……でもそういうところが好きなんだけど」

眩しそうに目を細めてうっとりと見られると、頬に熱があがっていく。
なにも言えなくなって俯く。
すっと、目の前にさっき買った指環のケースを置かれた。

「手、貸して?」

「あ、うん」