ペアの指環につい、池松さんの指環を思い出してしまう。
なんの飾りもないシンプルなプラチナの指環は、奥さんの趣味なんだろうか。

「指環かー。
女除けにつけてみるかな」

冗談めかして笑う、宗正さんの瞳の奥は全く笑っていない。

「……冗談だよ」

ぼそっと私の耳元で囁いた宗正さんを見上げると、もうすでになんでもない顔で別のところを見ていた。
宗正さんがひとりで指環をつけたって、社外はいいが社内では意味がないのだ。

――付き合っていることになっている、私が一緒につけないと。

宗正さんと一緒にイヤリングを見ながら考えてしまう。

もし、もしも。

私が宗正さんとペアの指環をつけたなら。

――池松さんはどうするんだろう。

少しくらい、嫌な気持ちになって欲しい……というのは私の希望だ。
きっと池松さんは私たちがそこまでの関係なんだってさらに安心するだろう。
そうなればたぶん、いまよりももっと前の関係に戻れる……はず。

でもそれは宗正さんの気持ちを利用した、最低の行為だ。
いまだって宗正さんの気持ちを知っていながら、甘えている。
これ以上の甘えは許されないのはわかっている。

しかし私とペアの指環をつければ宗正さんは、無駄に媚びを売ってくる女性を相手にしなくてよくなるのだ。
私は池松さんの安心を得られ、宗正さんも女除けになるんだったら、ウィンウィンでいいんじゃないのか。

「これとか似合うんじゃないかな?」

私の気持ちなんか知らずにイヤリングを私の耳元に当ててみながら、宗正さんは無邪気に笑っている。

「……大河」

「詩乃?
どうしたの?」

イヤリングを棚に戻し、宗正さんは心配そうに私の顔をのぞき込んだ。

「指環、買お?
お揃いの」

「……自分がなに言ってるかわかってる?」

いつもはほやほや軽いのに、宗正さんの声はずっしりと重い。

「わかってるよ。
でも大河は女除けになるし、私にだってメリットはある。
……だから」

都合のいい詭弁だってわかっている。
けれど私はその保険が欲しかったのだ。

「……わかった」

宗正さんは私の手を掴んで店を出ていく。

「大河!
指環買うんじゃないの!?」

「買うよ?
でもペアの指環を買うってことがオレにとってどういう意味か、詩乃にわかって欲しい」

ビルも出て宗正さんが私を連れていったのは、ハイブランドまではいかないが、ブライダルジュエリーも展開しているブランドショップだった。