おじさんは予防線にはなりません

――いつもの。

あれから宗正さんとは時々、ごはんに行ったりしている。

「もー、さー。
勘弁して欲しいー」

ぐったりとテーブルの上に崩れている宗正さんはかなりお疲れのご様子だ。

「ボールペン落としてもさ、気づいてるはずなのに拾わないの。
もうオレが拾うしかないから手ー伸ばすじゃん?
そしたら私もいま、拾おうとしてましたーってわざとらしく手、握ってきて。
しかも見つめないでほしいー」

ポテトを振り振りはお行儀悪いけど、宗正さんにとってこんなのはいつものことっぽい。
社内の人間なら邪険にできるけど、得意先の人間にはそうはいかないから、困っているらしい。

「大変だね、大河も。
今日は飲も?
飲んで忘れちゃお?」

「詩乃ー」

宗正さんが泣き真似するから、苦笑いしかできない。
たわいのない話をしながらふたりで飲む。

宗正さんは一杯目はビールでそのあとはハイボール。
私はずっとカシスソーダ。
はじめて頼んだとき、宗正さんはらしいと嬉しそうに笑っていた。

「週末、詩乃、暇?
見たい映画があるんだけど、一緒に行かない?」

「あー……」

週末は暇だ。
特にすることもないし、きっとベッドの中でネット小説を読んでいるだけで終わる。

「暇なら、いこ?」

可愛らしく宗正わんこに小首を傾げられてお願いされるともーダメ。
嫌だなんて言えなくなる。

「いいよ。
なに見に行くの?」

「邦画で、青春ラブコメなんだけど。
そういうのは嫌い?」

不安そうにうかがわれ、可愛いなーとか思ってしまう。
相手は年上の男なのに。

「ううん、全然。
楽しみにしてる」

「やったー」

見えないしっぽをパタパタ振っている宗正さんはやっぱり可愛いなーと思うんだけど、同時に胸の奥が針で刺したかのようにチクリと痛む。


宗正さんとの関係は友達だと割り切るようにしていた。
宗正さんもそれでいいよって言ってくれたし。

でも週末の映画が私にとって友達と遊びでも、宗正さんにとって片想いの女の子とデートだって理解していた。
わかっていて、知らないフリをして。

――私は酷い女だ。



日曜日、映画館の最寄り駅で待ち合わせ。
友達に会うときみたいに、Tシャツにデニムスカートじゃなくて、水色のワンピースに白のカーディガンを羽織る。
それくらいはしないと、宗正さんに失礼だと思うから。