店員がメニューを下げていなくなり、宗正さんはぶーっと唇を尖らせた。

「詩乃、遠慮しただろ。
オレは遠慮して欲しくなーい」

なんでわかってしまうんだろう。
ほんとは宗正さんの頼んだ、大人のお子さまランチが食べたかった。
でも普通の日のランチには少しお高くて、しかも宗正さんのおごりとなると遠慮した。

「でも、悪いですし」

「あー、池松係長が詩乃にかまいたがる気持ち、わかるー。
詩乃めっちゃ、可愛いもん」

身体をくねくね悶えられても、困る。

「それでさっきの話だけど」

急に話題を変え、宗正さんは姿勢を正して座り直した。

「オレ、嫌いなんだよね。
女に色目使ってこられるの。
森迫のオバサンの一件から愛想笑いやめてきっぱりとした態度とってるのに、そこがまたいいとかべたべたしてこられて迷惑してるの」

森迫さんの一件から態度を変えた宗正さんに、離れた女性も多い。
けれど熱狂的な信者としか呼べないような人間もいまだにいる。

「ほんとは付き合ってないんだからそう言ったほうがいいのはわかってるんだけど。
詩乃と付き合ってるって誤解してくれた方が諦めてくれるかなって。
……ほんと、ごめん」

真摯にあたまを下げられ、ううんと首を横に振った。

私が池松さんを好きだと知っても、泣きたいときは慰めてくれると言ってくれたのは宗正さんだ。
そんな宗正さんの役に立てるならばいい。

――けれど問題は。

「けど酷くない、あの人。
完全にオレたちが付き合ってるって誤解してさ。
少しは詩乃の気持ちを考えろってーの」

すぐに頼んだ大人のお子様ランチが出てきた。
ハンバーグにスパゲティ、エビフライにタコさんウィンナーと懐かしいものがおしゃれに載っていって、美味しそう。

宗正さんはがつっと目の前に置かれた、お子様ランチのプレートのハンバーグに、思いっきりフォークを突き立てた。

「で、でも。
池松さんは私の気持ちを知らないんですし……」

ほんとは池松さんは知っている、私の気持ち。
だからこそ、池松さんの中で私と宗正さんが付き合っているって確定されて、ほっとした顔をしていた。

「それも酷いって!
オレだってすぐ、詩乃が池松係長が好きだって気づいたのに。
ああいう無自覚が一番罪が重いんだよ。
今日だって詩乃をランチに誘おうとしてさ!」

ざくっ、いい音をさせて乱暴にエビフライに噛みついた宗正さんだけど、失礼ながらミニチュアダックスが黒ラブに歯を剥き出しにして威嚇しているようにしか見えなくて、かえって微笑ましい。

「……ぷっ」

「なーに笑ってんの?」

ジト目で睨まれ一瞬笑いも引っ込むが、やっぱりミニチュアダックスにしか見えないから無理。