「池松係長の年になると、花火大会の人混みはつらそうですもんね」

私のことで池松さんと話すとき、宗正さんはいつも威嚇している。
まるで池松さんに私を取られまいとするかのように。
でもそんなに威嚇する必要はないんだけどな。
池松さんは全く私に気がないどころか、暗に拒絶しているんだから。

「そうだぞ。
もうあの人混みは勘弁してもらいたい。
若いもんは若いもん同士で楽しんでこいや」

そうやって何度もだめ押しするかのように予防線を張らなくたって、池松さんは諦めなきゃいけない相手だってわかっている。

なのにこんなメッセージを送ってくる神経がわからない。
だから私はいつまでたっても池松さんを忘れられないのだ。

「お待たせ。
……どうかしたの?」

眉間にしわを寄せ、険しい顔で携帯を見つめていたあろう私を、戻ってきた宗正さんが怪訝そうに見ている。

「なんでもないですよ」

笑って誤魔化すと、宗正さんはぶーっとまた、唇を尖らせた。

「また敬語ー。
敬語、禁止」

「えっと。
……なんでもないよ、大河」

「合格ー」

にこにこと嬉しそうに笑って私の隣に座る宗正さんに、苦笑いしかできなかった。


そのうち暗くなって、花火があがり出す。

「きれいだね」

「そう、だね」

そっと宗正さんの手が私の手にふれる。
その手はおそるおそる私の手に重なった。

「……嫌?」

こわごわうかがうように聞かれ、ふるふると首を振る。
不思議と宗正さんにふれられても嫌じゃなかった。

もしかしてこのまま、宗正さんを好きになれる?
そうしたら池松さんを忘れられる?

「花火もきれいだけど、詩乃もきれいだね」

そっと、宗正さんの手が私の頬にふれた。
じっと私を見つめる瞳に私も見つめ返す。

「詩乃が、好きだ」

ゆっくりと傾きながら顔が近付いてきて、目を閉じた。

……これで池松さんを忘れられる。

でも本当にこれでいいんだろうか。
私は宗正さんの気持ちを弄んでいるだけなんじゃ。
それに、こんなことしたって、私の気持ちが変わるとは思えない。

「い、嫌」

目を開けると唇がふれる直前だった宗正さんは顔を離した。

「それはオレが嫌いだから?」

泣き出しそうな顔に胸がずきずきと痛む。
私がふるふると首を振り、さらに宗正さんは聞いてきた。